大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和43年(ワ)12413号 判決

原告 坂内法子 外一名

被告 国 外三名

訴訟代理人 伊藤幸吉 外三名

主文

一、被告らは、各自、原告両名に対しそれぞれ金一〇五万円およびこれらに対する昭和四四年二月六日以降完済まで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二、原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三、訴訟費用はこれを四分し、その一を原告らの、その余を被告らの、各負担とする。

四、この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事  実 〈省略〉

理由

一、 (死亡事故の発生)

請求原因第一項の事実は、原告らと被告林、同川村、同藁谷の間では争いがなく、また被告国との間では、第二事故車が亡矢井を轢過したとの点を除いて争いはなく、〈証拠省略〉によれば、第二事故車が同人を轢過し、よつて死に至らせたものであることが認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

二、(責任原因)

(一)  被告林

請求原因第二項(二)の事実は当事者間に争いがないから、同被告は、第一事故車の運行供用者としての責任がある。

(二)  被告川村

〈証拠省略〉によれば、同被告が昭和四〇年九月被告林から第一事故車を一五万円で買受け、これを通勤用およびその勤め先であるキヤバレー「ナンバーワン」の集金用に使用していたことが認められ、右認定に反する〈証拠省略〉は前掲各証拠に照してたやすく借信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

してみると、同被告は、第一事故車の所有者と認められるから、運行供用者としての責任を負うものとすべきである。

(三)  被告藁谷

〈証拠省略〉によれば、本件事故現場は、両側に歩道のある、車道幅員一五米、片側三車線の直線道路上で、制限時速は六〇粁であり、当時は降雨中であつたとはいえ、約五〇米程度の見通しが可能であつた。同被告は、当日ビール約四本を飲んで正常な運転ができないおそれのある状態で、しかも時速約七〇粁で第一事故車を運転し、さらに、リヤカーを引いて右道路を第一事故車から見て右から左に向けて普通の歩行速度で横断中の亡矢井を約一九米まで接近してはじめて発見し、よつて本件事故に至つたことが認められる。してみると同被告には、制限速度を超過して自動車を運転し、かつ酩酊のため前方に対する注意を怠つた過失があり、このため本件事故を惹起したものというべきであるから、同被告には、民法七〇九条の責任がある。

(四)  被告国

請求原因第二項四の事実は、訴外西久保の過失の点を除き、当事者間に争いがない。

【判示事項】してみると、被告国は、民事特別法一条に基づき、国が自賠法三条の運行供用者に該当する場合の例によつて損害賠償の責に任ずるものと解すべきであるから、同条但書の免責事由が認められない限り、本件事故によつて原告らに生じた損害を賠償する責任を免れない。

三、(被告国の免責の成否)

前出〈証拠省略〉を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  本件事故現場は、南北に通ずる歩車道の区別のある車道幅員一五米、片側三車線の直線舗装道路上で、この道路が、東西に通ずる歩車道の区別のない幅員三・八米の道路と直角に交差する信号機の設けられた交差点の北方寄りの地点であり、右南北道路の交差点両側にはそれぞれ横断歩道が設けられている。

(二)  事故当時の天気は雨であり、事故現場付近は街灯の明りのみで明るさは十分ではなかつたが、なお五〇米程度の見通しが可能であつた。

(三)  被告藁谷は、第一事故車を運転して南北道路第三車線上を時速約七〇キロ(制限時速六〇粁)で南に向けて進み、前認定のとおり前方注意を怠つたため、右交差点手前三〇米余の地点を、ダンボール、木箱を積んだリヤカーを引いて西から東に向けて横断している亡矢井の発見が遅れ、第三車線上で右リヤカー右後部に第一事故車前部を激突させ、ためにリヤカーを一九・九米、同人を一七・九米、それぞれ同車進路前方の第二車線上(交差点から一〇米余北方よりの地点にはね飛ばし、同人を路上に転倒させたうえ、交差点をこえて衝突地点から約七〇米進行して対向車線内で北向きに停止した。

(四)  訴外西久保は、第二事故車を運転して南北道路第二車線上を、第一事故車と相当の距離を置いてその後尾灯の見える状態で、時速約三五粁で同方向に追尾し、第一事故車がリヤカーに点衝突して前記のとおり被害者を転倒させた後間もなくその転倒地にさしかかつたが、第二車線上にあつたリヤカーを約六米の距離まで接近してはじめて発見し、ハンドルを左に急転把したためリヤカーとは同車右ドア部分を接触させるにとどまつたが、その際、リヤカーの約二米手前の路上に転倒していた亡矢井に気付かず、同車右後輪で同人の胸腹部を轢過した。同人はリヤカーを発見するより前、先行の第一事故車の尾灯が左右にジグザグに揺れるのを現認したが、前方交差点の信号が青であることに安心し、かつ信号が変らないうちに交差点を通過すべきことに気をとられ、ために進路前方の路上に対する充分な注意を払うことなく進行し、よつて右のような事態に至つた。以上の事実が認められ、

〈証拠省略〉右認定に反する供述部分は、いずれも前掲各証拠に照らし、たやすく措信できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

右事実に照らすと、第二事故車を運転していた訴外西久保に進路前方の道路状況に対する注意を欠いた過失がなかつたものとは到底断じえないところであるから、その余の点につき判断するまでもなく、被告国の免責の主張は理由がない。

四、(過失相殺)

〈証拠省略〉によれば、第一事故車と亡矢井の引いていたリヤカーとが接触した当時、第一事故車進路前方の信号は青であつたと認められ、加えて前記認定の事実によれば、亡矢井は、巾員の広い道路を、信号機の設置された交差点近くにおいて横断するについて、右信号の現示を意に介することなく、しかも車両の通行に対する充分な安全確認を怠つた過失があつたものと推認すべきであるから、本件賠償額算定に当たつてこれを斟酌すべく、諸般の状況に照らし、その過失相殺の割合は略三割程度とするのが相当である。

五、(損害)

(一)  亡矢井の逸失利益 一一〇万円

〈証拠省略〉によれば、亡矢井は大正七年二月二七日生れの男子であり、当時廃品回収業に従事して平均二万二〇〇〇円程度の月収をあげ、月額一万二〇〇〇円の生活保護費も併せて同人と右法定代理人坂内テル子、原告両名の四人世帯の生活を維持していたことが認められ、右によれば、亡矢井は、本件事故がなければ少くとも一五年間にわたり、月二万二千円程度の収入をあげえたものと認められ、その間の生活費は月一万円程度と認めるのが相当であるから、その間の逸失利益の現価は、複式(年別)ホフマン法によつて年五分の中間利息を控除して一五八万一二三五円となるところ、同人の前記過失割合を斟酌すれば、賠償額としては右金額が相当である。

そして、前掲〈証拠省略〉によれば、原告らは亡矢井の子であり、相続分に応じて右請求権を各二分の一の五五万円宛相続したものと認められる。

(二)  慰藉料 合計二〇〇万円

前記諸事情ことに本件事放態様、損害の程度、亡矢井の過失割合ならびに原告ら法定代理人尋問の結果によれば、坂内テル子は亡矢井の内縁の妻であつて同人にも固有の慰藉料請求権を肯認しうる関係にあると認められる一方、事故当時から既に損害賠償請求権の消滅時効期間である三年をはるかに経過していることその他本訴に現われた一切の事情を考慮すると、本件事故によつて父親を失つた原告両名の精神的苦痛を慰藉すべき額として、各一〇〇万円の合計右金額が相当である。

(三)  損害の填補

本件事故により、原告両名が自賠責保険金各五〇万円を受領したことは原告らの自認するところであるから、これを原告らの前記各損害額に充当する。

六、(結論)

以上の次第であるから、被告らに対する原告らの本訴請求は、原告両名において各一〇五万円およびこれに対する事故発生の後である昭和四四年二月六日以降完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条にそれぞれ従い、また仮執行の免脱は不相当と認め、主文のとおり判決する。

(裁判官 坂井芳雄 浜崎恭生 鷺岡康雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例